コラム レモン社 銀座教会店

寄稿文:立体写真(2)

前回に引き続き、山縣氏の立体写真になります。 弊社より作例をお願いしましたが、写真に掲載されていらっしゃる方の肖像権の問題から、作例は省略しております。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 【手作りステレオカメラ製作への道】 [肖像権の問題で直井様の写真を省略させて頂きます] こちらの方は田中長徳先生曰く”人形町の赤ひげ”、カメラ修理屋さんの直井さんですが、”赤ひげ”の理由は金にならないカメラの修理でも喜んで受けてくれることから、そんな風に呼ばれたのかも知れません。この直井さんこそ、僕が手作りで最高の立体写真機を作ろう!と思い立たせてくれた方であります。 ステレオカメラ 僕はこれだけ多くの様々な立体写真機を手作りされた方は、直井さんの他には知りません。そして赤瀬川源平さんから売って欲しいと言われても『作り方はお教えしますが、売りません』と言ったというお話も聞きました。僕は何度も人形町の直井さんのお店に行って勉強させて頂きました。 この写真からもお解りの通り、直井さんは二眼レフを中心に立体写真機を手作りされていると思われ、ならば高性能な二眼レフカメラなら良い写真が撮れる立体カメラが作れる筈だと考えたのです。そしてたまたま友人から頂いて、使わずに拙宅で眠っていたローライコードIII型がありましたから、これで作れないものかと中を覗いてみようかと思ったのです。 ステレオカメラ製作 ステレオカメラ製作 昔のカメラというのは、故障したら直すためにネジで部品が外れます。恐る恐るカメラの側面を開けて調べてみると、僕でも何とか二台を連結できるようだと思えて、e-bayでもう一台を探して購入しました。そして合体に成功して完成したのがこの写真です。(栄光の一号機です)   ステレオカメラ このローライコードIII型ステレオカメラの製作記事は、中古カメラGet(2002年Vol-18号)に詳しく書かれておりますので、ここでは省略させて頂きますが、直井さんに見せたら『山縣さんはすごいですよ! これ量産体制に入っていますよね!!』とのことでした。 ステレオカメラ   そう、友人達から作って欲しいと頼まれて、僕は自分の以外も四台作りました。この合体はとても簡単で道具はドリル(手動でも可)と金ノコとドライバーがあれば作れます。 3台のステレオカメラ 三人の首からローライコードIII型ステレオカメラが三台(合計6台)が下がっているのは壮観ですよね。   このローライコードIII型ステレオカメラは、海外でもビックリされて、ハンガリーのブダペストでもこちらのプロカメラマンさんから褒められました。欧米人はこういうのを見て、直ぐに立体写真撮影用の機材だと解るようです。 このローライコードIII型ステレオカメラの素晴らしいところは、何と言ってもそのレンズの良さにあります。立体写真と言うのは撮影したポジのフィルムをビューワーのレンズで拡大して、透過光で鑑賞するのですから、解像度などの画質の良さを求められます、ですから35mmフィルムより6×6版の方に有利さがあります。 日本人ではローライと言えばプラナーf2.8が付いたローライフレックスに人気がありますが、僕はローライコードIII型のクセナー75mm f3.5というシュナイダー製のレンズに魅力を感じています。f値を抑えた無理のない設計の所為か、素晴らしい写りをするのです。このローライコードIII型ステレオカメラこそ、最強の立体写真機だと思って使っております。 僕がこのローライコードIII型ステレオカメラで盛んに撮影している頃、駒村商会の山口さん(残念ですが今では故人)という方からお電話を頂き、フジフィルム TX-1で立体写真機を作って販売したいというお話でした。作る方は出来ても、事業として成功するにはやはり価格だと申し上げましたが、その熱意は相当なもので、先の直井さんの工房へも何度かご案内したのを覚えています。   ステレオカメラ こちらが駒村商会さんから発売になった立体写真機です。さらに下はドイツのRBT社が作った立体写真機で、ライカのレンズが使えます。 ステレオカメラ このカメラのフィルムゲートを見ると、フルサイズの写真(35mm×24mm二枚)が撮れることが解ります。戦後のアメリカでテレビが一般家庭に普及する前には、ステレオ写真のブームがありました。そこで米国では24mm×24mmのリアリスト・サイズと言うフォーマットが開発され、カメラはより小さく、レンズはより高性能になって行きました。下の写真はコダック社のカメラとビューワーですが、24mm×24mmのリアリスト・サイズのフォーマットです。このようにカメラとビューワーがセットされて販売され、現像に出すとマウントのサービスもしてくれました。   ステレオカメラ 右の写真は、リアリスト・サイズのポジをマウント用にカットしたものです。(上段の一番右に二枚の90℃傾いた写真がありますが、撮影者がコダックステレオで撮影する際にカメラを縦位置で撮影したものです。立体写真機は縦位置の撮影はダメなんです)   ステレオカメラ こちら上の写真は24mm×35mmのフィルム面を二分割して使用しますから、それだけ画質的には不利になりますね。ペンタックスのステレオ・アダプターもこれと同様ですが、反射ミラーでやっていますが、こちらは両方ともツアイスの製品、鏡は使わずにプリズムで画像を取り込みますから素晴らしい画質になります。 僕のローライコードIII型ステレオカメラに対抗した訳でもないのでしょうが、中国製ですがこんな6×6版の立体写真機もあります。レンズはローライより落ちる気がしますが、ビューワーもセットで販売されており、手軽に楽しむのには良いシステムかと思います。 ステレオカメラ さらに6×6版のカメラなら、大昔から有るロシアのスプートニクがあります。ベークライトで出来ていますが、レンズは中々しっかりした物が付いております。僕はローライコードIII型ステレオカメラを自作する前はこのスプートニクを二台愛用しておりました。 ステレオカメラ ここまで立体写真機のお話をして参りましたが、カメラと同じぐらいに重要なのが観賞用のビューワーです。これも手作りが出来ますから、器用な方は是非挑戦してみてください。 ステレオ写真ビューワー こちらはプロが製作したリアリスト・サイズとヨーロピアン・サイズを鑑賞できるビューワーですが、ドラム式で連続鑑賞が可能です。 ステレオ写真ビューワー こちらはエア・エクイップメントという会社が生産していた、スライド・チェンジャー式の連続ビューワーです。トレーには24組のマウントされたステレオ写真が入り、横から突き出したバーを引いたり押したりしてスライドをチェンジします。連続して鑑賞することができ、とても便利な機材です。   ステレオ写真ビューワー こちらは僕の自作のビューワーで、高倍率のヘリコイド付きルーペで作りました。自分専用で作る場合は、自分の視度に合わせて作れば宜しいので、そんなに高倍率のルーペの必要はありません。これも簡単な工具と中学生程度の電気の知識が有れば簡単に製作できます。 ステレオ写真ビューワー こちらは200年ぐらい前のビューワーで紙に焼いた立体写真を鑑賞します。(これはレプリカではなくて本物ですよ)   ステレオ写真 こちらは天体の立体写真で100年ぐらい前の作品です。お月さまの立体写真はゃんと丸く見えますから驚きます。月の立体写真は皆さんが立体写真機を持っていなくても撮影できます。 地球から月までの距離 月までの距離は、38万キロと言われています。地球の一周は4万キロです。 立体写真は被写体のまでの距離の50分の1のレンズ間の距離(これをステレオ・ベースと呼びます)を取ると、より立体に見えるという理論があります。50分の1ルールなどと呼んでいます。 月と言う被写体を撮影する場合、38万キロの50分の1ですから、レンズとレンズの間は7,600キロと計算できますね。えっ!そんなカメラがあるわけない!と思われますが、7,600キロ移動して撮影すればOKですよね。そう、地球の自転を利用しているのです。地球は24時間で一回転しますから、有る地点は一時間で1666.66キロ移動します。7600キロ÷1666.66キロ=4.56という計算になります。最初の撮影から4.56時間という時間を開けてもう一枚撮影すると、この二枚はステレオ・ベースが7,600キロの写真になる計算です。このお月様の写真もこうやって撮影されました。   ステレオ写真 こちらの作品はローライコードIII型ステレオカメラでの作品です。 ステレオ写真 さてさて、怪しい写真をお見せしますが、立体写真は今から200年も前からありまして、その当時の立体写真集も残されております。下の写真の本がステレオスコピック ヌード(フランスで出版)というタイトルの立体写真集としては有名な本で、1850年からのヌードの立体写真作品がたくさん掲載されています。中にはヌードというよりポルノという作品まであり、昔からフランス人は助平な男が多かったようです。そういえば、古い立体写真機にはフランス製の物が多くあります。日本でビデオ・デッキが急速に普及したのが、お父さん達がHな動画を見たかったからだそうで、100年以上も前のフランスでもHな写真を見たがったお父さん達が立体写真機の普及に一役買っていたのかもしれませんね。   ステレオ写真集 ポストカード式ステレオ写真 こちらは今でも欧州の観光地で売られているボストカード式の立体写真です。開くとビューワーにもなり、立体のヌード写真が鑑賞できます。間違っても出張先から絵葉書だと思って出さないように気を付けないといけませんね。   ステレオ写真集 こちらは2001年に米国で作られた1950年代のヌード傑作写真集です。表紙を開くと裏側からビューワーが現れ、本を横にしてページを捲って鑑賞するものです。結構立体感があり楽しめますね。印刷も綺麗です。   ステレオ写真集 こちらは昔の日本の風景でしょうね。こんな作品が日本で撮影されて、欧米へ渡って行ったのです。もちろん買った人は、未だ見たことも無い日本の風景を楽しんだことでしょう。 皆さんステレオカメラと立体写真は如何でしたか。山縣ってのは相当な助平だな!と思われたかも知れませんね(笑)。田中長徳先生からは、世界で唯一の立体ヌード写真家などと笑われております。写真仲間からは『大森のご隠居』などと呼ばれたり、山縣写真塾の塾長とも呼ばれております。皆さんも是非一度ご自分で撮影して3Dに感動して下さい。今日は立体写真のお話でしたが、とても奥が深いことがお解り頂けたかと思います。最後までご拝読頂きありがとうございました。 塾長 拝 -------------------------------------------------------------------------------------------- 以上です。 ステレオカメラ機の写真も頂戴しておりますので、次にご紹介致します。 最後に宣伝になりますが、山縣様の文中にありましたベッサR2ステレオカメラは、レモン社にて151,200円(税込)で販売しております。 ご興味のある方はレモン社銀座店まで、お越し下さい。
山縣敏憲様寄稿文

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