【コラム】レンズに見る時代の変遷【キヤノン 50mm F1.8】

こんにちは、カメラのナニワ千里中央店です。

今日はキヤノン  50mm F1.8 についてです。

このレンジファインダ時代のキヤノンレンズ、「Lレンズ」とよく呼ばれていますがどこを見ても「L」の記載は無い……。

バルナックライカで使われていたスクリューマウントとほぼ同規格の為「Lレンズ」と呼ばれているのでしょうか?

※ちなみにこのライカのスクリューマウントを「Lマウント」と呼ぶのはどうも日本だけの様です。海外では「リジッドマウント」「(ライカ)スクリューマウント」と多く呼ばれています。



でも、キヤノンでは「Sレンズ」というのが公式な呼び名(キヤノンカメラミュージアムでも「Sレンズ」で記載)。
https://global.canon/ja/c-museum/product/s18.html

またこのSレンズと言う名称の由来も、「スクリューマウントのS」という以外に諸説色々ありますが、今となっては謎な所です。

ちょっと脱線しましたが、今回は標準レンズの中でもバリエーションの多い50mm F1.8をご紹介します。
キヤノン 50mm F1.8 は、1951年~1958年に発売された I型からIII型 まであります。

 Serenar 50mm F1.8 I

銀鏡胴が特徴のこの初期型モデルは、1951年発売され価格は26000円で販売されていました。重量は270gとこの小型モデルにしてはずっしり感があります。

絞羽枚数は10枚で円形絞りに近いものとなっていて、最小絞りはF16、最短撮影距離は1mです。

当時の勤労者平均月収が約13000円前後、米10kgが約1000円、そば・うどんが約15円ということなので、当時としては相当高価なものでサラリーマンで手に入れるにはなかなか難しものだったと想像されます。

  Serenar 50mm F1.8 I
発売日 1951年(昭和26年)11月
発売時価格 26000円
レンズ構成 4群6枚
絞り羽根枚数 10枚
最小絞り 16
最短撮影距離 1m
フィルター径 40mm
最大径x長さ 48 x 36.8mm
重量 270g

 CANON 50mm F1.8 II

1956年発売のII型になってピントリング環が黒に代わり鏡胴デザインが大きく変更されます。

絞羽枚数は9枚で、最小絞りはF22、最短撮影距離は1m。

発売価格は27000円、物価も変動し勤労者平均月収は約29000円前後、そば・うどんが約30円に、でもまだまだ高価であるのには変わりません。

この頃からレンズ名称がセレナーからキヤノンに変更になるのですが、これは先に昭和23年「精機光学工業株式会社」から、カメラのブランド名だった「キヤノン」に変更されたという事を受けてのもの。

その理由が当時一番のお得意さんだった進駐軍の将兵から「分かりにくいネー」という声を受けて早速実行したと、なかなかのフットワークの良さ。

そして、それをすぐ実行した当時の社長が御手洗 毅氏・・・そう、現キヤノン会長御手洗 冨士夫氏の伯父。

レンズ名称はその時は変更を見送ったのですが、それは戦前「セイキキヤノン」を生み出した時には、「カメラは作れてもレンズは外部から供給」という背景から(何と、レンズの供給先は今や永遠のライバル「ニコン!」)「カメラだけでなく、精機製のレンズを作りたい」という一念から生み出されたレンズの名称を社内公募で「セレナー」と名付けたという過去があったからかもしれません。


  CANON 50mm F1.8 II
発売日 1956年(昭和31年)2月
発売時価格 27000円
レンズ構成 4群6枚
絞り羽根枚数 9枚
最小絞り 22
最短撮影距離 1m
フィルター径 40mm
最大径x長さ 48 x 38.5mm

 CANON 50mm F1.8 III

1958年発売のIII型、II型とデザインはそんなに変わらないですが、絞環の上部の目盛で区別がつきます。

絞羽枚数は9枚で、最小絞りはF22、最短撮影距離は1m、重量は188g。

発売時価格は20000円、物価もさらに変動し勤労者平均月収は約35000円前後に上がって来ました。

ちょうど1958年が岩戸景気の始まり(61年11月まで)で景気も良くなり、高価ではありますが「頑張れば買えるなあ」くらいまでは来たかも。

当時の出来事を調べてみると、1万円札が発行、東京タワー完成等がありました。

  CANON 50mm F1.8 III
発売日 1958年(昭和33年)12月
発売時価格 20000円
レンズ構成 4群6枚
絞り羽根枚数 9枚
最小絞り 22
最短撮影距離 1m
フィルター径 40mm
最大径x長さ 48 x 39.3mm
重量 188g

この1本から見るだけでも、初代のセレナーはまだ連合国の占領下にありながらも戦後僅か6年でここまでのものを作り、そこから12年程で技術的進歩による低価格化、何よりも国民所得が大幅に伸びている所は目を見張るものがあります。

また、こういう形で他のレンズもご紹介できればと思います。