皆さまこんにちは。銀座教会店の中村でございます。
それでは先月の続き、レンズ名の由来を解説していきたいと思います。前回は日本のメーカーのみを扱いましたが、今回は海外メーカー編です。
海外ではレンズが設計されるごとに新しい名前が与えられていきます。一方で日本の場合、「ニッコール」「ズイコー」のように会社のレンズ群にまとめてブランド名としてつけられる形になります。世界には無数のカメラメーカーがあり、ご紹介しきるのが難しいため、今回は「フォクトレンダー」「カール・ツァイス」「ライカ」の大手3メーカーをご紹介していきたいと思います。
それでは参りましょう!
トップバッターは世界最古の光学メーカー、フォクトレンダー。すでに会社自体は存在しませんが、日本のメーカー・コシナによって商標が用いられ、その歴史は連綿と現代に受け継がれています。
フォクトレンダーの代表的なレンズの名前の由来は以下の通りです。
・ノクトン(NOKTON)……ラテン語で「夜」を意味する「Nox」、あるいは「夜の」を意味する接頭語「Nocturnal」に由来。
・ウルトロン(ULTRON)……ラテン語の「Ultra」(極端に)に由来。
・スコパー(SKOPAR)……ギリシャ語で「見る」「観察する」を意味する「Skopeo」に由来。英語のスコープ(scope)と同じ語源。
・ヘリアー(HELIAR)……ギリシャ語で「太陽」を表す「Helios」に由来。かの有名なロシアレンズ「Helios‐44」と同じ。
ちなみ海外のレンズメーカーのつける名前の8割程度はギリシャ・ラテン語由来のものです。生物の学名などもギリシャ・ラテン語が使われますし、あちらのアカデミックな世界の慣例といえるでしょう。
日本のメーカーでは人名・社名・地名などが使われることが多かったですが、文化の違いが如実に出ていて面白いですね。
さて、続きましては数々の銘玉を生み出しカメラ史に名を刻んだ名門カール・ツァイスのレンズ群の解説に移りたいと思います。
ツァイスレンズの特徴はレンズ構成によって名前が変わる点。ローライやハッセルブラッドなどにもレンズ供給しているため、テッサーやプラナー、ゾナーなどはクラシックカメラの世界では頻繁に登場する名前となっています。
・テッサー(Tessar)……レンズが4枚構成のため、ギリシャ語で「4」を意味する「Tettares」または「Tessares」を借りて名づけられた。
・プラナー(Planar)……「平坦な」という意味のラテン語「Planus」もしくはドイツ語の「Plan」に由来するとされる。像面の平坦性を重視した設計のため。
・ゾナー(Sonnar)……ドイツ語で「太陽」を表す「Sonne」に由来。
・ディスタゴン(Distagon)……「離れた、遠くの」という意味のラテン語「Disto」に、「角」を表すギリシャ語系接尾語「‐gon」(例えば五角形は「Pentagon」)をつなげたもの。
・フレクタゴン(Flectogon)……「Flecto」はラテン語で「曲がる、傾く」の意。語尾の「‐gon」はディスタゴンと同じく「角」を表すが、これはツァイス系の広角レンズにほぼ共通している。
・ホロゴン(Hologon)……「全部」を意味するギリシャ語の接頭語「Holo-」に由来。何もかも写せる程の超広角という意味だと思われます。
・ビオタ―(Biotar)……ギリシャ語で「生命」を表す接頭語「Bio-」に由来。動物の生態写真などでシャッタースピードを早くできるほど明るいという解釈が主流のようです。ビオゴン(Biogon)も同様。
なお、手に入れやすいオールドレンズとして人気のパンカラー(Pancolar)につきましては、書籍等を軽く調べただけではまったく情報が出てこず、由来不明となっております……。
何かご存じの方はおられますでしょうか? 情報提供お待ちしております。
最後にご紹介していくのは、世界中で最も愛されているカメラメーカー、ライカのレンズたちです。
主に開放F値によってつけられているレンズ名は日本語にすると聞きなれないものばかりで、それがかえってライカの神秘性を高めているように感じるのは僕だけでしょうか?
・エルマー(ELMAR)……製造会社の「Ernst Leitz」と設計者の「Max Berek」の名前から取った。もともとはElmaxという名称だった。エーミール・G・ケラーの『ライカ物語』によると、原型になったツァイスのテッサーに敬意を表し、語尾をarに変えて「エルマー」としたとのこと。
・ヘクトール(HEKTOR)……ギリシャ神話に登場するトロイア戦争の英雄。設計者のマックス・べレク氏の愛犬の名前でもある。
・ズマール(Summar)……ラテン語で「最高のもの」を意味する「Summa」に由来。ズミタール(Summitar)ズマロン(Summaron)なども同じ。
・ズミクロン(SUMMICRON)……前述の「Summa」とMicron(小さい)を組み合わせたもの。
・テリート(TELYT)……遠距離を表すギリシャ語系接頭語「Tele‐」とエリート(Elite)を組み合わせたもの。
・タンバール(THAMBAR)……ギリシャ語の「Thambos」に由来。辞書的には「驚き、驚嘆」という意味になるが、ライカ公式webサイトでは「不鮮明な」という意味だと紹介されている。
ちなみに余談ですが、レンジファインダー機の最高峰としてライカの名を不動のものとならしめたM3にも名前の由来が伝わっています。
これは新しくなったライカを象徴する3つの「M」から名づけられたそうです。
「more rapid」 より迅速
「more convenient」 より便利
「more reliable」 より確実
恥ずかしながら僕は単なる型式番号ぐらいとしか認識していなかったのですが、このような深い意味が込められていた訳ですね。
さて、だいぶ駆け足になりましたが今回はここまでとさせていただきたいと思います。ごくごくわずかしか解説できませんでしたが、ご興味あられる方は以下にあげる参考文献を手に取っていただけますと楽しめるのではないでしょうか。
なお、今回の記事作成にあたり日本語文献しか参照しておらず、企業ページも日本語のものしか確認できておりません。何か訂正が必要な箇所がありましたらご教示いただけますと幸いです。
参考文献
『カメラ名の語源散歩』 新見嘉兵衛 著 写真工業出版社
『ぼくらクラシックカメラ探検隊 フォクトレンダー 』 佐々木果 著 オフィスヘリア
『カール・ツァイス 創業・分断・統合の歴史』 小林孝久 著 朝日新聞社
『ツァイス・イコン物語』 竹田正一郎 著 光人社
『ライカ物語』 エーミール・G・ケラー 著 光人社
『ライカの歴史』 中川一夫 著 写真工業出版社
それでは最後までお付き合いいただきありがとうございました!
2020年もよろしくお願いします~!!