こんにちは~。編集長 中村です。
先週は「構図」のお話をいたしましたが、今回は写真をはじめたての方がつまづきやすい「露出」という言葉についての解説です!
「写真の仕組み」のもっとも基礎的な部分ですが、それゆえなかなか難しい部分となります。
できる限り分かりやすく、初めての方でも飲み込みやすいよう、ゆっくり解説していきますのでどうぞお付き合いくださいませ~。
【写真撮影には「光の量」が肝心】
【まずは簡単に「露出」の歴史から】
【露出調整の要素①:感度】
【露出調整の要素②:絞り】
【露出調整の要素③:シャッタースピード】
【感度・絞り・シャッタースピードの関係】
【表現にあわせて「露出」を設定しよう】
【「露出補正」とは】
【まずは「絞り優先」を使ってみよう】
【まとめ】
【写真撮影には「光の量」が肝心】
まず大前提として、写真を撮るのには適切な量の光が必要です。
たとえば、光が一切入らなくて照明もない地下室でカメラのシャッターを切っても、真っ黒な写真しか撮れません。
一方、明るい日中に5秒とかの長時間露光でシャッターを切ってみてください。ただただ真っ白な写真が撮れるはずです。
このように、写真を撮る際には、取り込む「光の量」が少なすぎても多すぎてもいけないのです。
この光の量を調整するためにカメラを操作し、感光材料(フィルムやイメージセンサー)に光を当てることを露出と言います。
転じて、光の量それ自体や写真の明るさを「露出」と呼ぶこともありますね。
最近のデジタルカメラは非常に「賢い」ため、「露出」について深く理解していなくてもカメラ任せで誰でも簡単に写真を撮ることができます。
とはいえ、この「露出」について理解しておけば、様々な写真表現を使いこなすことができますのでぜひともマスターしていただきたいところです!
【まずは簡単に「露出」の歴史から】
感度・絞り・シャッタースピードです。
なぜ、この3つが重要な指標となったかを知るために、ちょっとだけ「カメラ」の歴史を振り返ってみましょう。
この3つの指標の詳しい内実は、その後に説明します。
こちらの画像は、写真史最初期のカメラであるダゲレオタイプ・カメラです。
この時代はまだ感光材料の感度がきわめて低く、晴れた屋外でも30分以上露光しなければ写真を撮ることができませんでした。
風景写真とかならともかく、人物撮影でそんな長い間「動くな!」というのはなかなか無茶な話です。ちょっとでも動いたら写真がブレちゃいますから。
黒沢 清 監督の『ダゲレオタイプの女』という映画でもそのあたりの描写がありますので、ご興味あられる方はぜひご覧ください。
このままではマズいということで感光剤や写真用レンズの研究が進み、露光時間は飛躍的に短縮されていきます。
たとえば、1840年には有名なペッツバールレンズが発明されました。
最初期のダゲレオタイプ・カメラのレンズがF17だったのに対し、ペッツバールレンズはF3.7と格段に多くの光を取り込めるようになりました。
その後も写真レンズ・感光材料の研究が進み、やがて写真を1枚撮るのに1秒よりも短い時間で撮影することが可能になっていきます。
なぜならば露光時間が長いため、十分な時間が経過したらレンズにキャップをかぶせて光をさえぎってしまえばいいだけだったからです。
しかし、露光に必要な時間がどんどん短くなり、「一瞬」ともいえるほどの時間で事足りるようになると、手動でのコントロールは難しくなります。
そこで「感光材料を光にさらす時間をコントロールする」ための装置、シャッターというものが必要となったわけです。
このように、「写真」の発展の歴史に伴い、写真の明るさを決定する要素として感度・絞り・シャッタースピードというスケールが研究・発明され、今日の規格が作られていった次第になります。
【露出調整の要素①:感度】
さて、感度・絞り・シャッタースピードという指標の生まれた経緯はなんとなくご理解いただけたかと思います。
それでは、具体的に3つの要素の中身を見ていきましょう。まずは感度から。
先ほどカメラの歴史で「初期のカメラは感度が極めて低かった」という話をしましたね。
例えば、部屋の壁にプロジェクターで画像を投影してみても、壁にその画像が焼き付くことはありません。
なぜならば、部屋の壁の材質は「感光性」つまり光に反応して何らかの反応を起こす性質がなく、光を記録する力を持っていないからです。
写真を撮るためには、フィルムカメラならフィルム、デジタルカメラならイメージセンサーといった「感光材料」が不可欠です。
この感光材料がどれくらいの量の光で反応してくれるかが「感度」という指標になります。
ちなみに、感度の数値もアメリカ規格のASAとドイツ規格のDINという別々の感度表記がありました。
それらが統合され、今のISO基準に統一されたかたちになります。
ISOでの感度はだいたい100単位で数値が設定されており、100・200・400・800・1600……といった具合に2倍すると次の数字になります。
ちなみに、ダゲレオタイプ・カメラ時代の感光材料の感度はISOで言うと0.01程度だったそうです。これだけ感度が低かったら1枚撮るのに30分もかかるのがうなずけますね。
この「感度」が高ければ高いほど、少ない光で反応を示してくれます。
しかし、感光材料が記録できる光の範囲には限界があります。
感光材料の感度に対して、多すぎず少なすぎない光の量を取り込まなければなりません。
なので、感光材料の感度は「高ければ高いほど良い」というわけではありません。
また、感度が高くなると別の弊害も。実例をご覧ください。
この2枚はデジタルカメラの感度を変えて撮ってみたものです。1枚目は普通の感度で撮影したものですが、2枚目は感度をかなり高くして撮ったもの。
2枚目の写真は写真全体にノイズがのってしまってザラザラしてシャープさに欠ける写りになってしまっているのが分かりますね。
よくカメラボディの製品レビューなどで「高感度耐性」といった言葉が出てくることがあります。
この用語は、感度を上げた時にノイズがどれくらい出るかをテストしているというわけなのです。
この高感度ノイズが発生するのをなるべく抑えたモデルのデジタルカメラを「高感度機」と呼んだりもしますね。
上の写真は感度800のフィルムで撮影したものですが、空の部分など見ていただくと粒子が大きめで若干ざらついているのがお分かりいただけるかと。
とはいえ、カメラのフィルターや画像編集ソフト・アプリを使って「粒子」っぽいノイズをわざとのせることもできます。
なので、「ノイズ・粒子」の目立つ写真が必ずしも「悪い」というわけではありません。
しかし、少なくとも「滑らかでシャープな写真」を撮りたい方は、撮影時になるべく低い感度で撮影することをお勧めします。
【露出調整の要素②:絞り】
続きまして、「絞り」について解説いたしましょう。
「絞り」は取り込む光の強さ・量をコントロールするための機構です。その値を「F値」と呼んだりもしますね。
絞る(閉じる)ことで、レンズを通って入ってくる光の量を遮ることができます。
しかし、この「絞り」は単純に光量調節のためだけの機能ではなく、写真の「写り」にダイレクトに関係する要素です。
まず、F値を高くする(絞る)と、ピントの合う範囲が広くなります。
具体例をお見せいたしましょう。下の2枚は、絞りを変えて同じ被写体を撮ってみたものです。
1枚目のF2.8で撮ったものはカメラの後ろがかなりボケているのに対し、2枚目のF8ではかなりくっきり写っています。
ピントは「点」ではなく「面」で合うものなのですが、この「面」には前後の厚みがあります。これを「被写界深度」という言葉で言い表したりしますね。
目を細めてものを見ると少し見えやすくなるのと同じ原理だったりするのですが、「絞る」ことで被写界深度が深くなり、ボケて見える範囲が少なくなるのです。
2つ次の数字に進むと2倍になります。1つ隣り合わせの数字は、約1.4倍刻みになっています。
正確にはキリよく「1.4」ではなく√2(それ同士掛け合わせると「2」になる数字)です。
具体的には1.41421356237……ですが、小数点以下がずっと続いてきりがないのでとりあえず「1.4倍したら次の数字になる」と覚えといてください。
なかなか難しい話なので、このあたりの仕組みはあまり詳しく知らなくても大丈夫です。
いちおう少しだけ説明すると、絞りはレンズの光を通る部分の面積を減らすことで光の量をコントロールしています。
F値の低い、「明るい」レンズのことを「大口径レンズ」と呼びますが、これはレンズの径が大きくて光をたくさん取り込めることからその呼び方になっているのです。
絞りがF1からF1.4になる時、F値自体は√2倍なのですが、絞りが閉じられることで光の通る入り口の面積が2分の1になるのです。
それにより、取り込める光の量が2分の1になるらしいです。
なので、F値の単位は見かけ上は半端な数字ですが、実際には感度と同じで2倍ずつ数字が動いています。
特にオールドレンズの場合、絞りの値で劇的に描写が変わるものも多いので、表現の意図次第で積極的に絞りをコントロールする必要があります。
このように、絞りはレンズに入ってくる光の量を調節したり、ボケる範囲を変えたり、写真の描写を変えたりする機能を担っています。
【露出調整の要素③:シャッタースピード】
先ほど説明した通り、感光材料(フィルム・イメージセンサー)を光にさらす時間をコントロールし、光量を調節するのがシャッターの役目。
その開いている時間の長さを「シャッタースピード」と呼びます。
光の量が多く、適切な光量に短い時間で達する場合はシャッタースピードを「速く」する。
光の量が少なく、適切な光量になるのに長い時間が必要な場合はシャッタースピードを「遅く」する。
「絞り」や「感度」に比べて写真の「画質」が変わりにくい変数であり、絞りや感度の数値を変えずに光の量を調節したい場合は真っ先に調整することが多い要素です。
しかし、当然ながらシャッタースピードが速いか遅いかで「写真」に影響が出ないわけではありません。
こちらも具体例をお見せしましょう。
1枚目の写真はシャッタースピード1/500(0.002秒)で撮った写真、2枚目の写真はシャッタースピード1/2(0.5秒)で撮った写真です。
1枚目のほうが短い時間シャッターを開けて撮った写真なので、水の流れが「止まって」撮れています。
一方で2枚目はシャッターを少し長い時間開けて撮ったものなので、その間の水の動きまで写った写真になっていますね。
このように動く被写体を撮る場合、シャッタースピードを長めに設定することで被写体の動いた軌跡を写すことができるのです。
花火やホタルを撮る時にもこの長時間露光というテクニックが使われます。
逆に、被写体の車を「止めて」撮りたかったら、シャッタースピードを速めに設定しなければなりません。
逆に言えば、被写体の動きを気にしなくていい場合、シャッタースピードはいくつに設定してもいい要素だとも言えます。
手持ち撮影だとシャッターを開けているあいだ、手の振動などでわずかながらカメラが動いてしまうため、その動いた軌跡が「ブレ」として写ってしまうわけです。
なので、夜間撮影は三脚を使用してカメラを固定することがよく推奨されますね。
どうしても手持ちで撮りたい場合の目安として、レンズの焦点距離と同じぐらいのシャッタースピード(例えば50mmのレンズをつけていたら1/50)にして撮ると手ブレが起きづらいと言われます。
今どきは手振れ補正機能を内蔵したカメラやレンズが多いですが、フィルムカメラで夜に撮りたいときなど参考にどうぞ。
1秒・1/2秒・1/4秒・1/8秒・1/15秒・1/30秒・1/60秒・1/125秒・1/250秒・1/500秒……といった感じですね。
これもなんか微妙に2倍になっていないのがモヤっとしますが、いちおう2倍刻みで数値が動くと思ってください。
【感度・絞り・シャッタースピードの関係】
さて、感度・絞り・シャッタースピードの各項目を説明いたしましたが、これら3つがどういう関係にあるかを説明していきましょう。
まずは以下4枚の写真をご覧ください。
この4枚の写真は、それぞれ絞りとシャッタースピードの値が違います。なので、ボケている範囲や水の軌跡の写り方が違いますね。
しかし、これら4枚の写真は「露出」という観点で見ると「同じ」なのです。
絞り・シャッタースピード・感度のそれぞれの数字の単位を「段」という言葉で呼びます。
この4枚は、絞りを1段ずつ暗くしており、逆にシャッタースピードを1段ずつ明るくしています。
このように、感度・絞り・シャッタースピードのいずれかの数値を1段暗くしたら、ほか2つの数値のうちどれかを1段明るくしたら「同じ露出」になるのです。
写真の明るさは、光の総量(光の強さ×光を当てた時間)とそれを受け止める感光材料の感度によって決定されます。
光の総量は絞りとシャッタースピードで決定されますが、それに反応を示す感光材料の感度も「1段」増減させたら絞り・シャッタースピードを1段変えたのと同じ効果があります。
そのため、この写真も上の4枚と「同じ露出」です。
シャッタースピードを1段速く(暗く)した代わりに、感度を1段増やし(明るく)ています。これで、「露出」としては同じとみなせるわけです。
このように、感度・絞り・シャッタースピードの組み合わせは相互に関係しており、1つの値を増減しても他2つのいずれかを同じ分だけ増減すれば相殺できるわけです。
カメラやレンズによっては1/3段や1/2段刻みで数値を変更できるものもありますが、考え方は同じ。
例えば絞りを1/3段明るくしたら、シャッタースピードか感度のどちらかを1/3段分暗くすれば明るさは変わりません。
正三角形でも、二等辺三角形でも、テキトーな三角形でも、三角形でありさえすればすべて内角の合計が必ず180°になるようなイメージです。比喩ですが。
【表現にあわせて「露出」を設定しよう】
例えば、「もっと絞りを開いて背景をぼかしたい……」という場合、写真の明るさ自体を変えないためにはどうしたらいいでしょうか?
そのぶん、シャッタースピードを速くするか感度を低くすればいいのです。
「もっとシャッタースピードを速くして被写体を止めて撮りたい……」という場合、どうしたらいいでしょうか?
そのぶん、絞りを開くか感度を上げればいいのです。
「もっと感度を落として精密で滑らかな写真を撮りたい……」という場合、どうしたらいいでしょうか?
そのぶん、絞りを開くかシャッタースピードを遅くすればいいのです。
「絞りを開きたいけど光が多すぎてこれ以上シャッタースピードも感度も下げられない」とか。
「シャッタースピードを遅くしたいけど手ブレが怖い」とか。
しかし、望む描写に合わせて「露出」を設定できるようになれば、写真表現の幅は格段に広がります!
【「露出補正」とは】
ちなみに、デジタルカメラには光の量を測る「露出計」が内蔵されています。
しかし、カメラの露出計は万能ではなく、撮影者が「ちょうどいい明るさ」と感じる露出よりも明るかったり暗かったりする数値を「適正露出」と判断してしまうことがあります。
そんな時は「露出補正」が必要になります。
カメラの露出計は1枚目を「適正露出」と判断しましたが、少し暗いと感じたので1段分プラスで露出補正をしてみました。
シャッタースピードが1/800から1/400になったことで、写真が明るくなりましたね。
このように、感度・絞り・シャッタースピードのいずれかの数値を増減することで写真の明るさを変えることを「露出補正」と呼びます。
【まずは「絞り優先」を使ってみよう】
モードダイヤルに「A」とか「Av」とか書いてあるやつですね。
絞りの数値を自分で設定したら、カメラが自動的に光の量を判断してシャッタースピードを決めてくれるモードです。
「シャッタースピード優先」というモードもありますが、絞りの値を変えたほうが写真の変化が分かりやすいのでまずは「絞り優先」がおすすめ。
ちなみに、「感度優先モード」みたいなものも機種によってあるにはありますが、あまり一般的ではありません。
フィルムカメラでしたら基本的に途中でフィルムを換えることができませんので、感度は固定でした。
デジタルカメラでも感度はできるだけ低い数値で設定しておいてあまりいじらず、絞りかシャッタースピードを自分で設定して残りの1要素はカメラが露出計で測った光の量に準じて設定してくれる場合がほとんどです。
ちなみに、「露出」の3つの要素を自分で設定するマニュアルモードも、大抵のデジタルカメラに搭載されています。
たいていダイヤルに「M」と書いてあるモードですね。
ミラーレスデジタルカメラは撮影時に「その露出設定で撮った時の写真の明るさ」を直接見ることができます。
このあたりの話は以下の記事を参考にどうぞ。
なので、「露出」というものの関係性を理解したいならば、マニュアルモードで明るさを確認しながら撮ってみるのも勉強になりますよ!
【まとめ】
さて、長々と説明してまいりましたが、「露出」というものの仕組みはだいたいご理解いただけましたでしょうか?
つまり、写真を撮るために必要な光の量をコントロールする感度・絞り・シャッタースピードという要素はきれいに対称的な関係になっており、これをどう組み合わせるかが重要なわけです。
この話を念頭に置いてカメラの設定をいろいろいじっていくうちに、自分なりの「適正露出」が見えてくるはずです。
トライアル&エラーあるのみ!!
もちろん、スマホのカメラの露出設定もカメラとまったく同じ法則にのっとっているので、気になる方はマニュアル撮影のできるアプリを購入してみてもいいかもしれませんね。
「もっと明るく撮りたい!」というようなときに、先ほどまでの「露出」の話を覚えていたら、自分でうまく設定して思い通りの写真が撮れるはずです。
ぜひともチャレンジしてみてください~!!
以上、とてもとても長くなりましたが、写真の難しさと面白さの要となる「露出」の説明を終わります。
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今回も最後までお読みいただきました方々、ありがとうございました!
また次回のブログでお会いしましょう~。
参考文献:
『図解 カメラの仕組み』 豊田堅二 著 日本実業出版社
『カメラとレンズの仕組みが分かる光学入門』安藤幸司 著 インプレス
『写真の科学』田中益男 著 共立出版株式会社
『写真レンズの基礎と発展』小倉敏布 著 朝日ソノラマ