カメラのナニワ京都店阿部です。
大人気レンズ付きフィルム「写ルンです シンプルエース」が世界的な品薄となっており、お客様にもご迷惑をおかけしております。
今回は「写ルンです」の代用品として、富士フイルムXシリーズを使えないかという検証をいたします。
最新技術が詰まったミラーレスカメラで、「もっとも手軽なフィルムカメラ」を再現するという贅沢な試みですが、「写ルンです」の魅力を消さないようにするとなれば、意外と難しいんじゃないでしょうか。
「写ルンです」が今でも大人気な理由として
①シャッターを押すだけで撮影できる手軽さ
②持ち運びしやすいコンパクトさ
③デジタルにはない味(エモさ!)
があると思いますので、出来る限りそこを再現していこうと思います。
「写ルンです」のスペックは以下の通り。できるだけこれに近づけていきます。
フィルム | ISO400 135フィルム |
撮影枚数 | 27枚 |
レンズ | f=32mm F=10 |
シャッタースピード | 1/140秒 |
撮影距離範囲 | 1m~無限遠 |
【カメラ選び】
今回は私の所持するFUJIFILM X-S10を使用します。
写ルンですには敵わないものの、非常に軽量コンパクトであります。
カメラの形としてはX-Eシリーズの方が似てますが、X-E3の世代から内蔵ストロボが省略されています。
「写ルンです」といえばフラッシュ直当てのあの感じも重要ですから、内蔵ストロボは外せません。
他にはX-T30 IIも今回の検証に適切でしょう。
【レンズ選び】
次に使用するレンズですが、こちらもコンパクトで画角が近い物を選びます。
写ルンですの焦点距離は32mm。
写ルンですは35㎜フィルムを使用しますので、デジタルカメラのセンサーサイズだと「フルサイズ」相当になります。
X-S10はセンサーサイズAPS-Cでフォーマットサイズが異なりますので、21mmぐらいのレンズを使用するとフルサイズ換算で画角が近くなる計算です。
近い焦点距離で、純正のコンパクトなレンズはというと、XF18mmF2 Rか、XF23mmF2 R WRの2択となります。
(ちなみに純正でなければGIZMONから「写ルンです」のレンズを利用して作ったというレンズもミラーレスカメラ用に販売されています。本来はそちらを使用するのが最も手っ取り早いでしょう)
今回は画角が近いXF23mmF2 R WRを選びました。
(X100Vだとカメラの形も近いし、23mmだし、内蔵フラッシュもあるし完璧じゃん!という事実には、気づかなかったことにします)
【絞りとピントの設定】
ここではマニュアルフォーカスに設定してパンフォーカスにしましょう。
まずはじめに、被写界深度スケールは「ピクセル基準」ではなく、「フィルム基準」に設定します。
(「ピクセル基準」はパソコンで拡大表示するなどが前提の厳密な基準。「フィルム基準」はプリント鑑賞などを目的とした実用的な基準です)
続いて「写ルンです」と同じF10に設定して、ピントリングを回し、1m~無限遠までピントが合うかチェックします。
今やただ立てかけられるだけの存在と化してしまった私の楽器たちのことは気にしないでください。
モニターの下の方にある被写界深度スケールを確認してください。F10だと青いスケールが無限遠まで全然足りてないことがわかります。
そこでもう少し絞ってみます。
F13にしてみました。これでも1m~無限遠まではスケールが届いていませんが、まあ許容範囲でしょう。
あまり絞り過ぎると小絞りボケが心配ですし。
念のため、回折現象を補正してくれるという「点像復元処理」をオンにしておきます。
とりあえず日中はこれで固定で問題なさそうです。
以上で細やかなピント合わせは必要なくなり、シャッターを押すだけで誰でも撮れる「写ルンです」のような手軽さが実現できました。
【シャッタースピードとISO感度の設定】
ここは「写ルンです」と同じ設定にはできないところです。
「写ルンです」はシャッタースピード1/140、フィルムISO感度400で固定です。
こういったネガフィルムの場合、ラチチュードが広い(明暗の記録できる幅が広い)ため、露出設定がある程度ざっくりでもプリントやデータ化時に補正してくれます。
しかし、デジカメの場合、露出設定が写真の明るさに直結してしまいます。
絞り・シャッタースピード・ISO感度の全てを固定すると、限られた場面でしか撮影できなくなっていまいます。
そこで自動露出を作動させるため、シャッタースピードかISO感度のどちらかをオートにしなければなりません。
さて、どちらにするか。
シャッタースピードをオートにすると、高速シャッターやスローシャッターにも対応できて便利です。
特にX-S10の場合ボディ内手振れ補正が優秀ですから、ある程度暗い場面でもスローシャッターで綺麗に撮ることができます。
しかし、写ルンですの場合、室内や夜はフラッシュなしだと真っ暗になってしまいますから、暗い場面も普通に撮れるとなると正確な再現とは言えません。
だからシャッタースピードオートは却下です。
そこでISOオートに設定しましょう。
モードダイヤルは「M」の位置にし、ISO AUTOの感度範囲を設定します。
最低ISO感度は「写ルンです」と同じ400以上。
上限ISO感度は夜や室内が暗く写ってしまうギリギリのISO感度、3200以下にすることにしました。
(「低速シャッター限界」は、一見シャッタースピードオートの際にこれ以上シャッタースピードを遅くしないという設定に思えるのですが、基準〜上限ISO感度の範囲内で最適な露出を得られない場合は、設定した値よりも遅くシャッターが切られてしまいます。今回は無視で結構です)
また、シャッタスピードに関しては「1/140秒」がX-S10にはないため、1/160秒か1/125秒のどちらかに固定します。
基本1/160秒固定で良いと思いますが、暗くなってきたら1/125秒にしても良い、というルールにします。
【色味などの画質設定】
いよいよこの企画の肝となる部分です。
ここまでは「写ルンです」と同じ使い心地にする方法でしたが、ここからは「写ルンです」と似た写りにするための画質設定を行っていきます。
↑メニュー画面のこの部分をいじっていきます。
写ルンですの写真は弊社ブログにもあるので、過去記事を参考にしながら色味を設定していきましょう。
【写真で】写ルンですレター【つなぐ】
まずフィルムシミュレーションですが、ここは当然「スナップシューターに愛用されてきたネガフィルムを再現した」とされるクラシックネガを選択します。
まずはこの状態で一枚パシャリ。
正直「もうこれでいいんじゃない?」というぐらい好みの写りなのですが、写ルンですに寄せるためもう少し細かく設定していきます。
まずはコントラストの設定です。
写ルンですはもう少しシャドウを持ち上げてくれて、逆にハイライトは少し飛びがちな気がしますのでこんな感じでいきましょう。
シャドウ | -1 |
ハイライト | +2 |
フィルムの粒子感を出すため以下の設定も行います。
グレイン・エフェクト | 「強度:強 粒度:大」に設定 |
高感度ノイズ低減 | -4 |
長秒時ノイズ低減 | OFF(SS固定なのでたぶん関係ない) |
カラークローム・エフェクト | カラークローム・ブルーと共に「弱」に設定しておきます。 |
ダイナミックレンジ | オート、もしくはDR200%でよいと思います。 |
あとは写ルンですに比べかなり明瞭度とシャープネスが強い印象があったので、もう少し柔らかい写りになるようにこの二つも下げておきましょう。
シャープネス | -4 |
明瞭度 | -2 |
最後に、ホワイトバランスの設定です。WBオートで結構ですが、「写ルンです」は少し赤味が乗る印象があるので、WBシフトでR:2ぐらいに振っておきます。
それでは初期設定からの比較です。
↓フィルムシミュレーション:プロビア/スタンダード(初期設定)
↓フィルムシミュレーション:クラシックネガ
↓フィルムシミュレーション:クラシックネガ(写ルンです風カスタム)
写ルンですにしては写りすぎている(?)気がしますが、それっぽくなりました。
画質設定に関しては状況によっても変わると思いますので、最終的にはお好みで。
FUJIFILM X RAW STUDIOやカメラ内現像を使って、後からイジっていただくのもありだと思います。
【ファインダー/モニターの設定】
画質設定が終わりましたら、より写ルンです感を楽しみたい方におすすめのファインダー/モニターセッティングを紹介します。
①「マニュアル時モニター露出/WB反映」をOFFにする。「ナチュラルライブビュー」をONにする。
これによってファインダーに撮影設定が反映されないようになり、目で見たままに近い自然な映像が表示されます。
あと夜などの暗い場面でもファインダーが見えるようになります。
②バリアングルモニターを折りたたむ。
あえてモニターで確認できないようにすることによって、フィルムカメラで撮影しているような気分を味わえます。
こうすることでより写ルンですに近い使用感となります。
撮影しないとわからない
帰ってPCなどに取り込まないと撮れてる画像を確認できない
一見ストイックな縛りのように感じますが、余計なことを考えずに済むので、純粋に撮影を楽しむことができます。
是非お試しを。
【作例】
すべて撮って出しです。
我がマンションの階段ですが、陽の光が良い感じに差し込んでくるので、出かける度に私に撮られています。
世界的には無電柱化が進んでいるそうですが、日本では電柱・電線がまだ健在です。
なくなったらなくなったで、電線のある風景というのは貴重で懐かしいものになるんでしょうね。
遠景の方で少しピンボケしてるのがむしろそれっぽいかもしれません。
空の色もいい感じですね。
これに関しては27枚しか撮れない「写ルンです」では、なかなかできないことかもしれません。
めちゃくちゃ容量小さいSDカードを使って、あえて枚数制限をするといった楽しみ方も……私はやらないけど。
近所でなんとなく撮った写真も、旅先の1枚のように感じられるので不思議です。
写ルンですセッティングはシャッター押すだけで撮れますから、カメラのことを知らない人に渡して撮ってもらうのも楽々です。
私の激ダサさポージングについてはともかく、これに関してはライティングが完璧で写りすぎておりますね。
ついついやっちゃうカーブミラー自撮り。
年季の入ったものを撮影すると、いつのカメラで撮ったものかわからなくなりそうですね。
1m未満はピントが合わないことを再現していますので、手前のひまわりはピンボケしております。
シャープは落としたとはいえ、あえてピン甘にしたほうが写ルンですっぽい説はある。
実際はデータ化やプリント時にもうちょっとシャドウを持ち上げてくれると思います。
ここからは夜。フラッシュを炊いております。
あとさすがに暗かったので、F11 シャッタースピード1/125に変更しました。
あ〜「写ルンです」のフラッシュ、こんな感じだったかも〜。
「写ルンです」のフラッシュが届く有効距離は1m~3m。
X-S10の内蔵フラッシュについてはGN約7(ISO200・m)/GN約5(ISO100・m)だそうでISO感度とF値によって有効距離が変化しますが、今の設定で計算してみると案外「写ルンです」に近い数値になっておりました。
基本手前しか光が当たらないのは写ルンですと変わりません。
お目汚し失礼。
でも写ルンですを持っていくと必ずこういう一枚がある気がする。
1m未満はピントが合わな(以下略)
こんな失敗写真も思い出になります。とはいえ作例としてはもっと映える被写体でやってみたかった。クリームソーダとか。
富士フイルムの「グレイン・エフェクト」へのこだわりは素晴らしく、フィルムと同じようにシャドウ部は粒子感が強く出て、ハイライト部分は粒子が少なくなるように作られております。
夜フラッシュ写ルンですの再現もなかなか悪くない出来でしたがLightroom等でフェードをかけるともっとそれっぽい仕上がりになりそうです。
【まとめ】
一度この設定にしてしまえば、あとは何も考えずに撮れる「写ルンです」セッティングがとても良かったです。どこにピントを合わせるか、色味をどうするか、明るさはどうするか、なんてことを忘れて、気軽にシャッターを切れて、気軽に撮り合いっこできるのが、「写ルンです」を使用している感覚に似ておりました。
写りに関してはまだまだデジタル感が消えないなーと思いつつもどことなく懐かしさを感じさせる「写ルンです」の風味に少し近づけられたかなと思います。
純正の素晴らしい性能のレンズを使用したので、やはり解像度が高いですね。
あえてピン甘にしてみたり、オールドレンズを使用してみたりすると、また面白い結果になりそうです。
皆さまもオススメのセッティングがあればぜひ教えてください。
カメラのナニワ京都店 阿部
ほかのスタッフが書いたX-S10のレビューもご参考までに。
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