紳士の国の変態カメラ「CORFIELD Periflex Gold Star」

今回ご紹介するのは「どうしてこうなった?」と首を捻ってしまう紳士の国の変態カメラ、英国生まれの「CORFIELD ペリフレックス ゴールドスター」です。

世に数多のライカコピーは存在しますが、L39マウントを採用しているからと安易にライカコピー認定してよいかどうか、悩ましい存在のカメラです。

ライカコピーとしては、あまりに英国面に堕ち過ぎている印象ですね。

Gold Starとは随分御大層な名乗りですが、実態は普及機です。


●CORFIELD社
製造元のCORFIELDは露出計、距離計その他カメラアクセサリーの製造販売をしていたようですが、やがてカメラ製造/エキザクタの輸入販売等々に業務拡大。

その後日本製カメラに押しまくられた挙句、素敵な黒ビールで名高い「ギネス」に呑まれてしまい(金属樽の部品等も作ってたらしい)1971年に廃業……となりました。

ペリフレックスシリーズは1953年にデビュー、一説によるとエリザベス2世の戴冠式に間に合わせて投入したなんて話も聴きましたが、さてどうなんでしょう……。

※シリーズの歴史については、しばしば「ペリフレックス1」が1954年に最初に登場とされるようですが、1953年に「ペリフレックス オリジナル」と呼ばれるモデルが登場しています。


今回ご紹介するのは、さも上級機っぽい名乗りをあげる「ゴールドスター」、1961年登場のモデルです。

パっと見のデザインは好みが分かれるところでしょうが、機械的な合理性を追求するようでいてちっとも追い切れていない、ある意味夢のあるフォルムではないでしょうか……。

英国製ライカコピーで名高い「リード(Reid)」などは占領下ドイツからライカIIIbの図面を接収して作ったコピー機だけに、あたかも名工が手掛けたバルナックライカの様な仕上がりとなっています(ただし、必要以上に重い!)。

翻ってこのゴールドスターは、あちこち弄り回したところで精緻な感触には出会えない仕上がりとなっております……。

とは云うものの、先程「実態は普及機」と申しましたが、ペリフレックスシリーズには更にスペックダウウンした「インタープラン」なるモデルが存在します。

あろうことか、測距機構を取っ払ってしまった目測機なのですが、A/B/Cの3種のバリエーションを用意して販売されました。※A:L39、B:プラクチカ、C:エキザクタマウント装備

●名は体を
ところで「ペリフレックス」なる名前の由来ですが、「ペリスコープ(潜望鏡)」+「フレックス」からなるようです。

で、どこに潜望鏡成分があるのかと申しますと、こんな具合。レンズを外せば一目瞭然。

上から釣り下がるような配置のペリスコープ。距離計アームはありません。


何故にこんな設計を選んだのか?諸説ありますが、もっともらしいのは「Leica等の距離計連動二重像方式より単純」「安上り」と判断したのだろう、などと云われております。

このペリスコープ、レリーズ時にはびっくり箱のように上に跳ね上がる仕掛けとなっています。

ライカM5等の受光部ギミックの先駆け……は褒め過ぎですかね?ですよね。跳ね上げ作動は素早く、元気一杯です。

奥のガイドアーム下部に跳ね上げ用の「バネ」が仕込まれているのにご留意下さい


お陰でレリーズ時のショックは、とてもレンジファインダー機とは思えないアタッキーな感触です。
※ここまでお話した潜望鏡ギミックは、1954年登場のペリフレックス3以降の仕様です。第一弾のペリフレックス1では、軍艦部のボタンを押し込んでいる間だけペリスコープが降りるようになっていました。

ところで先程触れました、ゴールドスターよりも下位ラインナップのインタープランシリーズですが、ペリスコープを撤去したのにペリフレックスを名乗っている有様なのです。

但し、現存機が少ないようで、ゴールドスターよりもレア度は上のようです。

この独特な構造の測距方法を採用している為、ボディには距離計連動アームが存在しません。

ペリフレックスシリーズのピント合わせは、撮影イメージの中心部をペリスコープでスプリット式距離計へと導き、ピント合わせをする……と云った作業になります。

理屈としては一眼レフに近い感覚ですかね。

標準セットのLUMAX 50mmf2.4。ENNA製

どうせ使やしないんだから、とばかりに標準装備のレンズ「LUMAX 50mm f2.4」には距離計連動カムがありません。

このレンズに限らず、ペリフレックス用として生産されたレンズは、片っ端から連動カムがありません。

これでも多少はコストカットに貢献したのでしょうね。当然このレンズをバルナック型カメラに装着しても、「目測」で使うしかありません。

その一方で、このLUMAX 50mm、最短撮影距離がかなり短いと云う特徴があります。

最短撮影距離は2ftよりかなり短い

指標を見たところで最短撮影距離がよく判らないので、最短撮影距離0.45mのAi50mmf1.4と比べて実写したところ、流石に一歩及ばずと云った結果でした。まずはLUMAXから。

とりあえず売り場にて LUMAX 50mmf2.4 最短撮影距離

片やAi50では……

Ai50mmf1.4 最短撮影距離0.45m F2.8で撮影

ま、一歩及ばずとなったものの、ミラーレス機+ヘリコイド内蔵のアダプターで遊べばテーブルフォトも十分楽しめるレンズだと思います。

この時代のL39マウントのレンズとしては破格の近接能力と云えるでしょう。



逆に距離計連動カム装備のレンズは装着出来ないのか……?なんて事はなく、大抵のL39マウントレンズは装着/使用可能です。

沈胴させなければこんな組み合わせも恰好良いかも。

取り敢えずズミタールを装着するの図です。

但し、ペリスコープ部分はマウント面から約16mm程度(手元の金尺でざっくり測っただけです)の位置にあるので、沈胴はNG!

スーパーアンギュロン21mmf4なんかも後端飛び出しが軽く16mmを越えるのでNGです。

理屈上は一眼レフ並みのピント精度……のはず。

望遠レンズに関しては、三角測量の原理を応用した距離計二重像式よりも理論上は精度が高い……はずだよね?と思いつつ、距離計は左右逆象である点が軽くイラつきを誘います。

慣れるにはちょっと時間をかけてお付き合いする必要がありそうです。

ペリフレックス用として用意されていた交換レンズは比較的豊富な焦点距離が存在したようですが、1957年登場のペリフレックス3以降、ファインダーの対物側レンズを交換してフレーミングを変更する仕様となっています。

ファインダー視野の内「この部分で測距するんだぞ」と判るように、測距エリアのフレームも備わっていますが、ピント合わせは隣の窓を覗いて行う必要があります。

ファインダー視野は正像、測距は逆象と云った構造がちょっと鬱陶しくも感じられます。

交換がちょっと手間ですが、実用性はまぁそこそこ。

純正ラインナップでカバーされていない焦点距離のレンズを使うなら、別途ファインダーは必要になりますし、流通している中古レンズには付属の対物レンズを無くしてしまったレンズも多いのではないかと思います。



●操作性
ニコンSシリーズ/F、ローライ35等と同じく、裏蓋丸ごとがっぽり着脱式を採用しているのでフィルム装填作業はバルナックタイプよりは明らかに容易です。

さりげなくフィルム圧板が見えてますが、平面性にはちょっと不安が……。

ただし、テストフィルムで給装確認しましたが、フィルムカメラ初心者さんにはちょっとだけ難易度が高い作業になりそうです。

と云うのも。上の画像からお判りになると思いますが、スプロケット(フィルムの穴っぽこと噛み合うギア)は潔く省略されています。

この為、初心者さんには真っ直ぐフィルムを装填するのがちょっとだけ面倒になるかと思われたので指摘させていただきます。

恐らくこの点が原因と思われる問題点がありまして。

多分、このスプロケットを省略した影響かと思うのですが、装填されたフィルムは撮り始めと後半で撮影コマ間隔がまったく違ってしまいます。

出だしは慎ましやかなコマ間隔なのですが、段々とコマ間隔が広くなっていくのです。

スプロケットを省略した為に「パーフォレーション8個分送る」緻密な作業を捨て、ざっくりと巻上軸に巻き付けちまえ!的な構造を選んでしまった為なんでしょうか、フィルムを送るほどに巻き太りが進行していくようなのです。

その結果……

未使用期限切れの135-36exフィルムを装填直後に空シャッター3回で給送チェックをしたところ、33枚しか撮れないと云う困った事実が発覚しました。

カラーネガ3本パック990円の時代なら大して気にならない「個性」で済ませられましたが、36枚撮り1本2000円の時代には「好ましからぬ個性」と云わざるを得ませんな。


フィルムカウンターは減算式。自動復元なんて気の利いた事はしてくれませんが、この時代では当たり前の仕様です。

フィルム装填時にはカウンターセットをお忘れなく!

巻上レバー兼巻き戻し切替レバー。刻印はENGLANDではなくBRITAIN。

巻上レバーを矢印方向に押し込むと、フィルム巻戻し体勢となります。

巻戻しノブはちょっとトリッキーなポップアップ式。シャッターダイヤル中央部に設置されています。

外周ゼブラ部分がシャッターダイヤル。最高速度1/300也

中央部に覗いている金属パーツを軽~く倒すと……。

フォクトレンダー等でも同じギミックがありましたね。

巻戻しノブがバネ仕掛けで飛び出してきます。

クラシックカメラに慣れていない方が36枚撮りフィルムを巻き戻すのは(33枚しか撮れてないにせよ)、思ったより長い時間がかかる印象となるでしょう。

そもそも、フィルムカメラ初心者さん/クラカメ初心者さんが手を出すようなカメラでもないですよね。


全体的なビルドクオリティは決して高くなく、熱い職人魂を感じる要素がほぼ見当たりませんが、奇天烈なアイディアによる測距方式はいかにも時折やらかす英国魂満載です。

決して健全な勧め方は出来ませんが、ある意味「持つ喜び」を感じて頂ける方に是非、と小声でお伝えしたいと思います。

レモン社横浜店 松浦


●困った点
①ペリスコープの作動によりレリーズ時のショックがデカい。
②沈胴NG
③後端飛び出しレンズは要注意
④絞った状態ではピント合わせが厳しい(ペリスコープが暗くてたまらん)
④そもそも、ペリスコープが左右逆象
⑤36枚撮りフィルムで33枚程度しか撮れない
⑥こんなの使ってると変態と思われるかも

●イケてる点
①ちょいと個性的なフォルムで目立つ
②セットのレンズはミラーレス機なら結構楽しめる
③標準レンズは最短撮影距離が2ft未満
④L39への変換アダプタがあれば、距離計非連動でも装着できる(飛び出し注意)
⑤フィルム装填は癖があるものの、バルナックよりはるかに楽ちん
⑥こんなの使ってると変態と思われるかも


※日本語の資料が少ないため、今回のブログ執筆にあたり主に海外サイトを参照しております。