こんにちは!名古屋栄店 加藤です。
あたくし天体撮影も趣味なのですが、どちらかというとライトユーザーの部類に入ります。モバイルバッテリーで動く比較的シンプルなポータブル赤道義でちまちまと撮影しております。
今回は、そんなわたしが初心者向きの天体撮影のやり方をお伝え出来たらと思います。
必要な機材・セッティング手順・実際に撮影に行った様子など簡単にまとめましたのでご参考にしてください。
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【天体撮影の方法:固定撮影と追尾撮影】
天体撮影にも種類がありまして、大雑把に分けると2種類に分けられます。
固定撮影と追尾撮影です。
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・固定撮影
三脚などでカメラを固定して星空を撮る方法で一番とっつきやすい方法です。カメラを固定できれば、あとはバルブかタイムで長秒露光するだけで天体の写真が撮れます。
※バルブ:シャッターボタンを押している間シャッターを開きっぱなしにする撮影方法。※タイム:あらかじめシャッターを開いている時間を設定して撮影する方法。
・メリット
セッティングが簡単。三脚の上に載せて撮影するだけなので慣れると数分で撮影が始められる。タイムを使えばレリーズが無くても撮影が出来る。また背景を入れる際に構図がとりやすい。
・デメリット
長時間の露光に向かない。星は地球の自転に合わせて見かけ上動いているので長時間の露光時間になると星が流れやすくなる。
・必要なもの
三脚
雲台(きちんと水平を出したいのであれば3way雲台、自由雲台でもOK)
レリーズ(スマホのアプリでもいいが出来れば有線式が望ましい)
出来るだけ広角で開放F値が低いレンズ。
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・追尾撮影
星の動きを追いかけて星が流れないようにするやり方。上にも書きましたが固定撮影だと星が流れてしまうため赤道義や追尾装置を使って星が流れないように出来る。
・メリット
星が流れないため長時間の露光が可能になるので、よりノイズの出にくい低めのISO感度での撮影が可能になる。単一の天体(星雲、星団etc.)を長時間追尾できるため、複数枚撮ってのコンポジットが可能になる。広角レンズだけでなく望遠レンズを使える。
デメリット
赤道義+雲台+カメラ+レンズを支える必要があるので、より大型で揺れに強い三脚、雲台が必要になる(当然お高い!!そして重い!!)
必要なもの
三脚(脚の径が3㎝を超えるものが望ましい)
赤道義もしくは追尾装置
赤道義を載せる雲台(極軸合わせの為に微動装置が付いているものが望ましい。)
カメラを載せるための雲台(自由雲台が使いやすい。)
水準器
方位磁石
レリーズ
できればレベラーがあると水平が出しやすい。
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【使用機材紹介】
では今回撮影に使った機材の紹介です。
カメラ:フジフイルム X-T5シルバー
4020万画素搭載の高性能APS-C機、コンパクト設計ゆえにちょっぴり熱に弱い。
レンズ:フジフイルム XF8mmF3.5 R WR
6/29に発売されたXマウント初の超広角単焦点レンズ。気持ち悪いぐらいパースが効く。
フジフイルム XF60mmF2.4 R MACRO
2012年発売とちょっと古い型のハーフマクロレンズ。最新のレンズに比べるとAFは遅いけど写りはふんわりとして最高。
赤道義:Vixen ポラリエU
日本の天体望遠鏡メーカーVIXENが出しているポータブル赤道義(自動追尾装置)ポラリエの後継機。
軸受けスパンが大幅に伸びたことにより、搭載重量に余裕が持てるようになっている。
雲台:Vixen ポータブル赤道儀 極軸微動雲台DX
追尾撮影の場合、天体の回転運動に合わせるために回転軸を合わせる必要(極軸合わせと云う)があります。
その際に雲台を微調整できると作業が簡単になるので、微動装置が付いた雲台が必要になります。メーカー純正品オススメ!!
テレスコ工作工房オリジナル ポラリエU専用 PCBU-EQ2雲台ベースセット
ポラリエUに接続してカウンターウエイトを搭載する事により、搭載重量を増やすステキアイテム。
こちらは比較的お手頃価格で手に入りますが、非純正品になりますのでその点ご注意を。
Vixen ポータブル赤道儀 ポーラメーター
極軸合わせの為に必要。水準器とコンパスと傾斜計が一体化したステキアイテム。
ポラリエのホットシューアダプターに繋いで使用する。あくまでも簡易合わせなのだが精度は結構いい。
より精確な極軸合わせが必要な場合は極軸望遠鏡をお求めください。
三脚
みんな大好き(?!)Gitzoの三脚。でかい、重い、揺れない、三拍子そろった逸品です。
レリーズ:ETUMI 電子リモートスイッチ3 C1
カメラに触らずにシャッターが切れるアイテム。バルブ撮影の際に重宝する。メーカー純正ではない。
ヘッドライト:Vixen 観望グッズ 天体観測用ライトSG-L02
両手を自由にしたまま手元が照らせるアイテム。赤色光・電球色の切り替えが出来るLEDライトで調光が可能。
目への刺激が弱く星が見やすいため、天体撮影の必須アイテムといってもいいかもしれない。
ちなみにわたしが使っているのは生産完了品の前モデル・SG-L01ですが、こちらでも問題なく使えます。
ケンコーフィルター SOFTON B
星が太って写るので星座の星を強調したいときなんかに使います。天の川はざらつく事もあるのでケースバイケースで使いましょう。
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【機材セットアップ】
ここからは機材のセットアップの仕方。
固定撮影は簡単で三脚の上に雲台とカメラを載せるだけで済みます。
この時、自由雲台だとカメラの向きを変えるのが簡単になりますが水平が上手くとれないことがあります。
わたしは実家に3way雲台を忘れてきたのでこの日は自由雲台を使用しました。しかし、水平・垂直を厳密に取りたい場合は3way雲台のほうが良いでしょう。
ちなみにポーラメーターをホットシューに繋いで極軸にカメラを向けて撮影すると北極星を中心に星が回転する軌跡を撮影できます。
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追尾撮影は手順が増えます。
まず三脚に元々付いている雲台があれば外して、微動雲台を載せます。
この上にポータブル赤道義とカメラが乗るのでしっかりと固定しましょう。
次にポータブル赤道義を載せます。
ガタツキが出ないようにきっちりとネジを絞めます。
次に自由雲台を繋ぎます。
本来なら回転軸に直接繋ぐだけでいいのですが、わたしのポラリエUにはテレスコ工作工房さんのPCBU-EQ2雲台ベースを装着しているので、その上に繋ぎます。
自由雲台を繋いだらその上にカメラを載せます。
バランスを考えるとストラップは外したほうがいいのですが、カメラを外すときに落っことしそうなのであたしは付けたまま。
カメラを繋いだらポラリエにポーラメーターを接続し、北極星の位置を合わせます。
ポーラメーターはあらかじめ傾斜計を35度に合わせておいて、コンパスで真北に向けます。
北に向けたら磁気偏角(コンパスの指す北と実際の北のずれ)の分を調整します。※西美濃辺りだと西に7度ずれている。
北を向いたら三脚の脚の繰り出し量を調節して内蔵の水準器で水平をとります。この後微動装置を使って微調整をします。
※磁気偏角の値は国土地理院のHPに公開されているので参照してください。
ちなみにVixen公式Youtubeチャンネルにポーラメーターの使い方動画もありますので、より詳しく手順を知りたい方はこちらもご覧いただければと。
【実際に撮影へ行ってみました】
撮影場所は岐阜県の西美濃天文台と並んで建っている藤橋城。
国内でも有数の観測地で、この日もあたし以外に5~6人のグループが観測と撮影をしていました。
X-T5&XF8mmF3.5 R WR(換算12mm) F3.5 ISO3200 32秒
まずは固定撮影で1枚
天体撮影の場合、大抵絞りは絞り開放で撮ります。そのほうがより効率的に光をセンサーに取り込めるからです。
状況に応じてさらに1-2段絞ることがあります。
固定撮影では構図を決めてしまえばバルブかタイムでシャッターを切るだけです。
追尾装置を使わない場合は500秒ルールというものがあり、35mm換算したときの焦点距離で500を割った数字が大体星が流れずに撮れるとされています。
しかし経験上、結構な広角レンズを使っても30秒も開くと星が流れ出してしまうので、実際には20~30秒くらい開いて撮ることがほとんどです。
絞りは開放にしてピントはMFで無限遠の少し手前くらいが目安になります。
ライブビューで星が確認出来る場合は、ピントリングを前後させて星が一番小さく写っていればそれがその日の最適解になります。
X-T5&XF8mmF3.5 R WR(換算12mm) F3.5 ISO3200 30秒
若干雲に隠れていますが天の川も写っています。以前はISO3200にするとノイズだらけでしたが昨今の画像エンジンの進歩は素晴らしい!
XF8mmは開放F3.5とは思えない抜けの良さで天体撮影にもお薦め出来ますが、周辺部は流れやすいので要注意。
次は追尾撮影に切り替えて撮影していきます。ピントやシャッターに関していえば固定撮影でも追尾撮影でも同じですが、星を追尾してくれる分より長時間の露光が可能になります。
気合の入った方ならここでさらに複数枚RAWで撮ってコンポジットすることにより、淡い天体をくっきりとさせますがあたしは1枚撮りばかリです(コンポジットが面倒くさ……)
ちなみにRAW現像もしますが撮って出しの方が好きだったりします。
X-T5&XF8mmF3.5 R WR(換算)12mm F5.6 ISO1600 58秒
よりノイズを減らしたいのと、星像をきりっとさせたいので少し絞ってフィルターも無しで撮ってます。
中心の星像の流れが減り星が安定して写ります。しかし星を追って撮影しているので、城のほうは若干ブレます。
X-T5&XF8mmF3.5 R WR(換算12mm) F3.5 ISO1600 68秒
ここらで雲量が増えてきたのでカメラの向きを変えて北側の空を撮影します。今度は68秒露光して天体の光を強めて撮っています。
よりくっきりとした星像が得られますが、極軸合わせが甘いと盛大に星が流れるのでセッティングは慎重に行いましょう。
東の空を見るとプレアデス星団(昴)が見えたのでレンズをXF60mmに替えまして、目標をそちらに変更します。
晴れ間が減ってきたのでここからしばらくプレアデス星団を撮影しています。
X-T5&XF60mmF2.4 R MACRO(換算90mm) F2.4 ISO2500 25秒
X-T5&XF60mmF2.4 R MACRO デジタルテレコンx2(換算180mm) F3.2 ISO2500 30秒
雲の切れ間を縫うようにプレアデス星団を狙い続けて撮りますが、換算90mmくらいになってくると少し揺れただけで星像が乱れます。
現地に着いた時はキレイに晴れていたのですが段々と雲行きが怪しくなって来たのと、疲労のピークでもあったので近隣の道の駅へ移動して仮眠をとろうとしたのですが……。
ふと空を見上げると何やら晴れてきています。
ここで更に撮影できるのではないかと、いそいそと機材を出してセッティングします。
X-T5&XF8mmF3.5 R WR(換算12mm) F3.5 ISO2500 30秒
建物自体は消灯しているのですが道路照明のおかげで明るく写ります(その分星の撮影には不利になる)
X-T5&XF8mmF3.5 R WR(換算12mm) F3.5 ISO4000 16秒
東の空を見ると三日月がこんにちは(おはよう?)!していて、隣にオリオン座が横たわっています。
撮影条件としては良くないのですが、折角オリオン座が見ているのでどうしても撮影したくなり、ここでも10枚くらいシャッターを切ります。
月と道路灯により逆光が激しいですがなんとかオリオン座が写っています。冬にまた撮影してみたい天体です。
冬の星座は光が強く、さらに夜が長いので撮りやすいのですが、上空の大気は不安定なことが多いので揺らぎやすいのが難点です。
また大変冷え込むので人もカメラも防寒対策をしっかりと行った上で撮影に臨んでください。
【天体撮影にチャレンジしてみましょう!】
10年前は赤道儀がないと天体なんか撮れないよと言われていたのですが、現在のカメラの進歩は素晴らしく、固定撮影で苦も無く天の川が撮れてしまう時代になりました。
さらには都心でも星雲の撮影が出来てしまうようなセットが20万円以下で手に入るようになっています。
それでも重たい機材を持って撮影に行くのは単純に楽しいからです。
撮影はもちろん、機材をガチャガチャといじっているだけで時を忘れます。そして満天の星に心を奪われます。
皆さんもぜひチャレンジしてみてください。