こんにちは~。中村です。
X(旧Twitter)でさんざん引っ張ったネタをようやくまとめました……。
京都店の亀田です。
— ナニワグループ (@gnaniwa) March 15, 2024
世界初のスチル用ズームレンズ Voigtlander ZOOMAR 36-82mm F2.8が入ってきたので、国産初の標準ズームNikon AUTO 43-86mm F3.5と並べてみました。… pic.twitter.com/eA7UlKQTZL
Voigtlander ZOOMAR 36-82mm F2.8!
60年以上前に発売された、スチル用カメラ向けとしては世界初のズームレンズです!!
わたくし、こちらのレンズに前々から非常に興味がありましたが、それなりに希少品でなかなか入荷することがなく……。
今回、京都店にてお買取りさせていただいたとのことで、貴重な機会ですので使い倒した結果をレポートしてまいります~!
【まずは簡単なスペック解説】
【ZOOMARのここがアカン① 歪曲収差がひどい】
【ZOOMARのここがアカン② レンズが黄色い】ツ
【ZOOMARのここがアカン③ 周辺部の画質劣化が顕著】
【ZOOMARのここがアカン④ 色滲みがきつい】
【どうやったら使い物になるのか?】
【検証を踏まえてフィルムで撮影!】
【使用感まとめ】
【マウントについてちょっと注意】
【最後に】
【まずは簡単なスペック解説】
1959年に登場したVoigtlander初の35mm一眼レフ・ベッサマチック用のレンズですが、前述の通りスチルカメラ用としては世界初のズームレンズとなっています。
このレンズ自体は、アメリカのズーマー・コーポレーションという会社が開発したものだそうです。
スペックの特徴としては、焦点距離36mmから82mmまでカバーする標準ズームレンズでありながら、ズーム全域でF値が暗くならずF2.8固定なこと!
今どきのズームレンズだと、画角を変動させてもF値が変わらずF2.8のままのレンズはそれなりに普及してきていますが……。
”世界初のスチル用ズームレンズ”ですでにこのスペックを達成していたというのは驚くべきこと!
しかもなんとこのレンズ……インナーズーム方式となっています!
ズーミングしても鏡筒が繰り出さず、レンズの全長を変えずに画角を変えることができます!!
え? オーパーツ級の超ハイスペックレンズなのでは??
……なんていううまい話は残念ながらありません。
当然、無理したスペックになっているので「画質」面がいろいろとマズいことになってしまっているのをお見せしていきましょう。
【ZOOMARのここがアカン① 歪曲収差がひどい】
ボディはSONY ZV-E1で、デッケルマウント→EFマウントアダプターとEFマウント→Eマウントアダプターのアダプター二段重ねで装着しています。
広角端36mmでの撮影ですが、とんでもない歪曲収差が発生しておりますね。ショーケースの段が分かりやすくたる型に歪んでしまっています……。
はい、今度は反対に内側へと巻き込むような糸巻型の歪曲収差が発生しますね。
今までいろいろなレンズを使ってきましたが、ここまで「まっすぐのものがまっすぐに写らない」ことは初めてです。
オールドレンズを使っていると、広角レンズはたる型の歪曲収差・望遠レンズは糸巻型の歪曲収差がよく出ますが……。
1本のレンズでたる型・糸巻型の歪曲収差を両方を体験することになるとは思いもしませんでした。
【ZOOMARのここがアカン② レンズが黄色い】
最初、オートホワイトバランスで撮影していたのですが「なんか色が変じゃない??」と思ったので設定を「太陽光」に変更して撮影してみたところ……。
めちゃくちゃ黄色くなりました。
経年劣化で黄変したタクマーと変わらないくらい発色が黄色に偏ります。
部屋の照明が色被りしているとかではありません。
このレンズを調べるにあたっていろいろなクラシックカメラ雑誌をあたってみたのですが、「黄色い」「ファインダーを覗いただけで黄色いのが分かる」との記述が散見されました。
経年劣化もある程度あるとは思いますが、もともと黄色い・黄色くなりやすい硝財で作られたレンズのようですね……。
【ZOOMARのここがアカン③ 周辺部の画質劣化が顕著】
引きつづきZV-E1での撮影。ホワイトバランスは補正しないとあまりにも写真の見栄えが厳しいので、オート(ホワイト優先)で撮影しています。
まず広角側36mmの絞り開放F2.8で園内の建物を撮影してみましたが、画像周辺部の写りが明らかにボヤボヤになっているのがお分かりいただけますでしょうか?
強烈な周辺減光も相まって、ホラー映画のワンシーンのような写りです……。
画面真ん中の写りはふつうというか結構いい感じに質感もでているのですが、画面端になっていくにつれ急速に解像感がなくなっていきます。
F2.8での撮影ですが、まるで集中線のエフェクトをかけたような感じになっています。
コマ収差など諸々の収差に対する補正が十分でないため、放射状に像が歪んでいるのが原因でしょう。
クセのある面白い写りではありますが、これを許容できるかどうかはけっこう分かれそうですね……。
【ZOOMARのここがアカン④ 色滲みがきつい】
とりあえずもうクセ玉なのは確定ということで、収差が目立ちやすい夜にさらにテスト撮影してみました。
これも当然F2.8開放で撮影。広角側36mmです。
もう正直どこから突っ込んでいいのか分からないほど異様な写りですが……。
日中でのテスト撮影では写りが安定していた画面中心部に異変が発生しているのがお分かりいただけますでしょうか?
街灯の明かりの周辺にくっきりと青い色滲みが発生していますね。倍率色収差です。
明かりのまわりに青い何かがボヤァ~っと出ているのがはっきり分かるかと思います。
絞りを開けて日中に撮影したいと思った時に、木の枝とか背景に入っていたらかなり厳しいことになることが予想されますね……。
【どうやったら使い物になるのか?】
「どうにもならんクセ玉です」と匙を投げてしまっては面白くないので、どうやったら使い物になるのかをあれこれ模索してみました。
まず、クセのあるオールドレンズで撮影するときのオーソドックスな対処法「できるだけ絞る」を実践してみました。
上の写真はF16まで絞って撮影したものですが、周辺部画質はかなり向上して画面全体がシャープに写っている状態になっていますね(細かく見たらまだちょっと甘いけど)
分かりやすいよう、同じ位置からF値を変えて撮影した写真をお見せしましょう。
明らかに周辺部画質がぜんぜん違います。
F11ではまだ少し甘さはありますが、だいぶ実用的な写りになったのではないでしょうか?
しかし、歪曲収差は絞っても改善されません。
なので、まずはズーミングして焦点距離を変えながらどのように歪曲収差が変化していくのかを確認してみました。
だいたいこんな感じです。
広角側よりも望遠側のほうがキツい感じですね……。一番マシなのは40mmから50mmにかけてぐらいでしょうか?
これで「なるべく絞って40~50mm付近で撮影する」ことでZOOMARのクセを目立たなくできる……らしいという結論に至ります。
【検証を踏まえてフィルムで撮影!】
それは何故かというと、このレンズが付くボディを持っていたからです。
一時期わたくしはデッケルマウントのセプトン 50/2が欲しくて堪らなかった時がありまして……。
レンズ本体はいまだに持っていないのにも関わらず、なぜかVoigtlanderのベッサマチックを購入しておりました。
そういう経緯もあり、今回このZOOMARで使用レビューを書くにあたって「フィルムでも撮るぞ~!」という意気込みでいたわけであります。
ここから、検証結果を踏まえたうえでフィルムで撮った作例をお見せしてまいりましょう!
※フィルムの現像・データ化はカメラのナニワ 梅田2号店で行いました。
まずは挨拶代わりの歪曲収差。望遠端のいちばん強烈なやつ。
ビルが内側にギュムッと歪んでおります。
今回、テスト撮影に出かけたのは万博記念公園です。
絞って撮影すると、開放でのポヤポヤな写りとはうって変わってキリっとした描写を見せてくれますね!
発色・コントラストともにかなり良好で、いい感じかもしれない……!
広角端で撮影したので若干ながら地平線が歪んでいますが……。
金属やコンクリートの質感もバッチリ。空の発色も素晴らしいですね!
F16まで絞ってもなお周辺減光が強めですが、これがかえって良いんだなぁ……。
逆光耐性の確認もかねて太陽をフレームに入れて撮影。
一眼レフで太陽を直視するのは危険なので、だいたいフレーミングした後にファインダーから目を離して撮影しています。
前玉が大きいこともあり、かなり盛大にフレア・ゴーストが発生してしまいますね。
ちょっと太陽がフレームに入っただけで小さなゴーストが出たりしたのでなかなか苦労します……。
背景に直線が無ければ歪曲は分からない!ということで望遠側で撮影してみました。
ピント面の切れ味が非常にシャープで立体感のある写り……!
事前に許容できるF値を調べておいて良かった~!!
1本撮りきったので室内でフィルムを再装填します。
屋内で光量も少ないのでだいぶ絞りを開けましたが、やはり周辺部が甘くなってしまいますね……。
こちらも日陰での撮影なので絞りは開け気味です。
背景が騒がしくなりそうなシーンでの撮影、しかも2段しか絞っていないこともあり、盛大に「飛び散ってる」感じの写りとなりました……。
若干ズーミングして撮影していますが、それでもやはり歪曲は気になります。
苦手な状況はきっちり苦手。なかなか使いこなしが要求されます。
半逆光での撮影なので右上に小さなゴーストが発生してしまいました。
でもハイライト・シャドウの諧調の繋がりや枝の1本1本まで細かく解像している感じは非常にすばらしいです。
なんて極端なレンズなんだ……。
「そろそろここらへんで絞り開放行っとく?」という心の声が聞こえたので木陰ゾーンに突入します。
フィルムで撮っててこんなに色滲みが出たの初めてなんですけど……。
ハイライトも飛び気味でぜんぜんトーンが出ません。
せっかくのF2.8通しズームレンズですが、絞り開放はなかなか使うのが難しいですね……。
今どきはオールドレンズで撮影して収差を活かした写真も珍しいものではなくなっています。
なので、こういうちょっとクセのある描写も受け入れられやすいかもしれませんが……。
このZOOMARが登場した当初、このような写りがどういう風に受け取られたかというと否定的な意見が多かったことでしょう。
実際、参考資料としてクラシックカメラ本を何冊かあたってみましたが、「十分な画質を出せるレンズではなかった」という記述が大多数でした。
ですが、今回こうして使ってみた感触としては「思っていた以上に使い物になる」レンズなんじゃないかと思います。
とにかくギリギリまで絞ることが重要。
林道を抜けてポピー畑にやってきました。
「飛び散ってる」し歪曲も酷いのですが、異様に立体感があってめちゃくちゃインパクトがある写真が撮れました。
最短撮影距離が1.3mなのでぜんぜん寄れないのが地味につらいです。
もっと寄れたら花を撮るのにいい感じの面白いレンズなんですけどね……。
撮影に行ったのは3月末でしたが、ポピー畑の近くに桜っぽい何か(不勉強ですみません)が咲いていたので望遠側で撮影してみました。
空を背景に撮ったので周辺減光がもう本当にすごい……。
ピントが合っているところはシャープに写っているのですが、後ボケは強烈に流れていて不思議な感じ。
ちなみにF16まで絞るとこんな感じ。
四隅の写りは若干甘いですが、写りは「ふつう」になってしまいますね。
ある程度いろいろ撮ったのですが、ダメ押しでもう1本撮っておこうと思ってフジの400を詰めました。
夕方になり、斜光気味になった光を丁寧に描写してくれています。
個人的にはこのカットが今回いちばん好きかもしれません。
こっちも捨てがたい。ハイライトの質感がめちゃくちゃ良い。
ちなみにここら辺からベッサマチック君の調子が悪くなって巻き上げがうまくできなくなり、この最後のフィルムは半分以上撮影できませんでしたとさ……。
【使用感まとめ】
最短撮影距離が長くて「寄れない」ので惜しまれるところです。
非現実的な雰囲気の写真が撮れますので、上手く使えばほかのレンズでは真似できないような作品に仕上げることができるでしょう!
マウントアダプター経由でデジタルカメラに装着して撮影する場合はここら辺はあまりメリットになりづらいかもしれませんが……。
周辺部画質がかなり良好になり、このレンズのポテンシャルを一気に引き出すことができます!
どうしても撮りたい場合は焦点距離を40~50mmにして歪曲収差が目立たないようにすると良いでしょう。
【マウントについてちょっと注意】
説明すると長くなるので詳細は省きますが、このZOOMARは「デッケルマウント」というちょっと珍しいマウントを採用しています。
今回お買取りさせていただきました品は、デッケル→EFマウント変換アダプターもセットになっておりました。
このマウントアダプターがなかなか手に入らない、手に入れるとしても2~3万円したりするというなかなか厄介な代物でして……。
デッケル→M42のアダプターのほうが入手しやすい印象がありますが、精度の高い国産のものだとやはりそこそこお値段が張ります。
撮影するためにこのレンズ購入しようと思っている方は、マウントアダプター入手のアテもあらかじめ調べておくことをおススメしますね。
「デッケルマウント」のフィルムカメラはVoigtlander以外にもいろいろあるのですが、地味にちょっと仕様が違ったりして互換性がほぼ無いに等しいです。
このZOOMARをデッケルマウントそのままで付けて撮影しようと思ったら、Voigtlanderのベッサマチックシリーズ以外のカメラはあまり使わないほうが無難でしょう。
まぁこのベッサマチック系統のカメラも機構が複雑で壊れやすいらしく、なかなか扱いが難しいのですが……(実際わたくしの所持している個体もたまに巻き上げできなくなる)
【最後に】
このZOOMARも基本的に良い評判を聞いたことはほぼありませんでした。
実際に使ってみて、まぁいろいろと分かりやすい欠点だらけでしたので……敢えてその評価を覆そうとは思いませんが……。
あれこれ工夫して使ってみると、最初の印象とは違っていろいろな表情を見せてくれる非常に面白いレンズでした!
もうちょいいろいろ使いやすかったらなぁ……。
このブログでご興味を持たれた方、中古は一点ものですのでお早めにお求めください!
〇商品詳細
【中古】(フォクトレンダー) Voigtlander ズーマー 36-82/2.8 EFマウントアダプター付
商品コード:2221070383710
価格:¥98,000
商品状態:チリ・少カビ 鏡筒スレ
付属品:EFマウントアダプター FRキャップ
それでは8,000字近い超ボリュームになりましたが最後までお読みいただきましてありがとうございました!
また次回のブログでお会いしましょう~!!
【おまけ】
先日、CP+にてご本人にお会いできて光栄でした!
デジカメWatchさんのほうの記事でCanon EOS 5D Mark IIに装着されていましたので、真似して記念撮影してみました(作例は撮ってません)
また、Xの引用リポストで教えていただいたのですが、もともと「zoom」という英単語は「飛行機の急上昇を意味する単なるオノマトペだった」とのことです。
この言葉に「可変焦点距離という意味がついた」のは、やはりこのZOOMARがきっかけらしいです。
このあたりの経緯を確認しようとして、レンズ開発に携わったズーマー・コーポレーションについて調べようとしたのですが……。
いろいろ本をあたってみたりGoogleで検索してみたのですが、全然情報が得られませんでした……。
ですが、非常にたくさんのオールドレンズをご紹介されているM42 MOUNT SPIRALさんにズーマー・コーポレーションの詳しい解説がありました!
語源についてはあまり解説がありませんが、ズーマーコーポレーションについて興味がある方はぜひご覧いただければと思います。
このズーマーコーポレーション、1968年にKilfitt社(世界初の35mm用マクロレンズを開発した会社)を買収しているしているとのことで……。
非常に興味深い話ですねぇ……。