こんにちは~。編集長 中村です。
今回のブログはだいぶ前にXでお話したこちらについて。
こちらのコミュニティでご要望いただきました「前玉コーティングスレが描写にどう影響するか?」の検証、そろそろやっていきます。
— ナニワグループ (@gnaniwa) April 26, 2024
前玉のコンディションが悪いレンズがあまり見つからなかったので、やはり私物のスレスレAngenieux(画像右側)とまともな個体(左側)で比較してみようと思います~! pic.twitter.com/GCH9VLJZ65
「レンズのコーティングスレはどこまで写りに影響があるのか?」というご質問をいただきましたので、コーティング劣化具合の異なる2本のレンズを使っていろいろ撮り比べしてみました。
検証しはじめてみるとなかなか難しく、だいぶ長いブログになってしまったのですがどうぞお付き合いください!
【Angenieux 35/2.5 で検証】
【実写比較① 室内での撮影】
【実写比較② くもりの屋外での撮影】
【実写比較③ 晴天屋外での撮影】
【スレの程度に応じてコントラスト・シャープネスが低下】
【番外編 フィルムでもテスト】
【Angenieux 35/2.5 で検証】
こちらは1950年に登場したレンズですが、まず簡単にどういったお品物か説明しますと……。
一眼レフカメラ黎明期の技術的課題として、ボディ内にミラーボックスを備えた一眼レフには後玉が飛び出した構造のレンズが装着できないという問題がありました。
特に広角レンズは後玉が飛び出た構造のものが当時主流だったのですが、このAngenieux 35/2.5は「レトロフォーカス」という方式を採用することでその問題をクリアしました。
ちなみにこの「レトロ」というのは「後ろ」という意味で、前玉に大きな凹レンズを配置することで焦点距離を短くできる設計になっているとのこと。
しかし、ガラスやコーティングの材質がもろく、前玉にかなりダメージが入ってしまっている個体が中古市場には非常に多いのが難点……。
上の写真は私物のAngenieux 35/2.5です。ご覧の通り、前玉のコーティングがスレだらけのテッカテカになっています……。
今回、中古在庫でコンディションが良さげなものを確保することに成功したのでこちらと条件を揃えて撮り比べをしていこうと思います。
マウントは中古市場でもまだ個体数が多いエキザクタです。
本当はこんな特殊なレンズではなくもっと「ふつう」のレンズで比較したかったのですが、いい具合に比較できそうなレンズを2本確保するのが難しかったので……。
そしてこのマシな方の個体もやはり多少はコーティングにスレが発生してしまっています。
今回は「軽度のスレでも著しい画質劣化が起こるのか?」という疑問への検証も兼ねると思います。
今回は画像をタップしたらちょっと大きめの画像が表示されるように設定しましたので、気になる方はPCなどでじっくり確認してみてください!
【実写比較① 室内での撮影】
それではまず室内でちょっとだけ撮ってみたものからお見せしていきましょう。
SONYのフルサイズミラーレスカメラ・ZV-E1にマウントアダプター経由で装着し、露出・ホワイトバランス揃えて撮ってます。
三脚立ててたけど若干ズレてるのはご容赦ください……。
さっそく写りに違いが出ているのがもう一目でお分かりいただけると思います。
スレ大のレンズで撮った写真はシャドウ(写真の暗い部分)がしっかり暗くなっておらず、明暗のコントラストが非常に甘い写真になっていますね。
また、合焦部のシャープさもあまり感じられず、全体的にヌケが悪い写真になってしまっているのがお分かりいただけるかと。
続いて逆光での撮影です。順光での撮影よりもさらに影響が分かりやすいですね。
スレ大のほうはコントラスト・シャープネスともに甘く、モヤっとした写りになっています。
また、若干ながら発色の偏りもあるような感じですね。黄色っぽいというか黄緑っぽいというか……。
さて、簡単に撮ってみた結果を踏まえて屋外でも撮影してみた画像をお見せしていきましょう。
【実写比較② くもりの屋外での撮影】
雲で太陽光が遮られるぶん、明暗のコントラストが低い写真が撮れやすいシーンですがどうでしょうか?
まずは普通にバラを撮ってみたカット。
室内で撮った時よりもさらに分かりやすくコントラスト・シャープネスの低下が見てとれます。
続いてヒキのカット。
スレ大のほうで撮ったものはソフトフィルター付けて撮ったみたいになってますね……。
このAngenieux 35/2.5は絞り開放だと若干にじみが出ることが特徴のひとつ(らしい)のですが……。
WEB掲載用の小さい画像では分かりにくいので恐縮ですが、確かにスレ小のほうもかすかににじみが出ています。
次は絞り開放で遠景撮影。この写真くらい明るい部分と暗い部分の差があるとにじみがより分かりやすいですね。
ちなみに同じ位置から絞り込んでF5.6で撮影した画像をみていただきますと……。
スレ小のほうで撮った写真の滲みはすっきり消えています。
絞り込むことで収差が軽減され、コントラスト・シャープネスが向上したと考えられるでしょう。
現行品のレンズで撮った写真を見慣れている方からするとそれでも「甘い」印象を受けるかもしれませんが……。
そもそも70年以上前に設計・製造されたレンズですので、経年劣化の影響を加味したとしてもこれぐらいの写りにはなってくるのではないかなと思います。
【実写比較③ 晴天屋外での撮影】
日光で明るくなっているところと日陰で暗くなっているところで明暗の差が発生するため、曇りの日と比べてコントラスト低下があったら顕著に出そうですがどうでしょうか?
まず適当に1カット。
スレ大のほうはシャドウが浮いてぼんやりした写りですね。
スレ小のほうはわずかにハイライトがほわっとしていますが、コントラストが低くなりすぎることもなく良好な写りとなっています。
かなり顕著に差が見てとれるのがこちらのカット。
スレ小のほうは葉の表面のパリッとした質感が出ていますが、スレ大のほうは全体的にのっぺりした写りになってしまっています。
先にスレ大のほうで撮ってそのまま露出を変えずにスレ小で撮影しているため、スレ小のほうの写真は若干白飛びしちゃってます。
スレ小で適正露出をとった後にスレ大のほうで撮っていたらまた違った結果になっていたでしょう。
続いて若干逆光気味の撮影。どちらも画面右に小さなフレア・ゴーストが発生しています。
スレ大のほうはもともと全体的にフレアがかったような写りのため、ゴーストが逆に目立ちにくかもしれませんね。
画面中央下あたりを見ると、やはりスレ大のほうは少し発色の偏りがあるようです。
開放遠景です。
どちらもホワホワの写りですが、スレ小のほうは輪郭の部分だけが滲んでいるような感じです。
1段絞って比較。
スレ大のほうがモヤモヤ感が抜けないのに対し、スレ小のほうで撮った写真はすっきりシャープになっていますね。
という感じで晴天屋外だとコーティング劣化の影響が非常によく分かる結果となりました。
コントラスト・シャープネスの低下が著しく、若干ながら発色の偏りも見られます。
良くも悪くも元々のレンズの描写からはかけ離れた写りになっていることがお分かりいただけるかと。
【スレの程度に応じてコントラスト・シャープネスが低下】
このAngenieux 35/2.5のように、人気があって中古市場に綺麗なコンディションのものが少なくなっているものを購入する際には注意が必要ですね。
この手の経年劣化による影響は店頭で試写してみれば一目で分かると思いますので、オールドレンズは特に実物を見た上で購入されることを強くおすすめしますね。
もし万一見逃しがあったとしても、ナニワグループでは2週間の初期不良対応期間を設けております。
購入した店舗に相談していただければ然るべき対応をいたしますので、安心してご利用ください。
今回、かすかにスレの入った個体を試写してみた感じ、そこまで深刻な画質劣化は起きていないように見えました。
ピント面の切れ味も良く、発色やコントラストも良好であまり大きな画質劣化は起きていないように見えます。
これもコーティング劣化が影響しているかもしれないと思って比較画像を撮ってみていますが……。
どちらも似たようなフレアの出方ですが、全体的にモヤっとしているスレ大で撮った写真のほうが逆に不自然さがないという謎の結果に……。
ちなみに年代的にほぼ同じのAngenieux製レンズに28mm F3.5というものがあり、これはわたくしのほうでだいぶ前玉が綺麗な個体を所持しているのですが……。
この28mm F3.5もフレア・ゴーストが出やすいレンズでかなり光線状況には気を使います。
なので、この結果だけだと「どんなレンズでもコーティング劣化があるとフレア・ゴーストは出やすくなるのか?」かどうかについては今回の検証だけでは判断が難しいです。
28mmのほうでもこれはよく出るのですが、見栄えのいいタイプのゴーストではないのでなかなか難しいところ……。
そしてAngenieux35mmは前玉のフィルター径が51.5mmと謎のサイズとなっているため、一般的な市販のサードパーティーフードがそのままでは装着できないという難点も。
よりコンディションの良好な個体を使ったらもっとビビッドな色が出てくる可能性は無いでもないですが……。
多少スレがある個体であっても、もともとレンズが持っている特性はそれなりにきちんと出るようですね。
多少くすんだ感じの発色にはなっていますが、スレ小で撮った場合と色の系統としては同じものを感じますね。
オールドレンズはどうしても大なり小なり経年劣化による写りの変化があるため、「何をもってそのレンズの特徴とするか?」が難しいですが……。
経年劣化によって同じ種類のレンズでも1本1本描写が違うのだとしても、やはりある程度は共通の傾向みたいなものはあるんだろうなぁと思うなど。
これは今後も引き続き調査していきたいところです。
購入するならばなるべくコンディションの良いレンズを探したほうがいいというのは間違いないのですが……。
必ずしも「完璧な美品でなければ実用に耐えない」というわけではないのかなと。
ただし、繰り返しになりますが、特にオールドレンズは可能な限り実物を見てから購入するかどうかを判断するのが無難です。
皆様にはお手間をおかけして恐縮ですが、ナニワグループ各店では他店商品の移動・取り寄せも承っておりますので、ぜひともご活用いただければと。
販売店員として、同じようなコンディションのレンズをお客様が購入しようかどうか検討していた場合にはなかなかオススメしづらいよなとは思います。
クモリのあるレンズで撮った写真にはそれはそれで趣があるというのは感じるのですが、ただモヤっとさせたいだけならソフトフィルターを付けるだけでもOKなわけでして。
そのあたりのご相談も承りますので、くどいようですがぜひともナニワグループのお店にお越しくださいますと幸いでございます。
【番外編 フィルムでもテスト】
使用したボディはExakta Varex(こちらも私物)です。それぞれレンズを交換して同じ露出で撮影してみて、どのような違いが出るのかを確認してみました。
まずはLomography Color Negative 100で撮影したものをお見せしていきます。
シャッタースピードは記録とっていないので忘れてしまいましたが、絞りは開放で撮っています。
デジタルで撮影した時同様、スレ大のほうで撮影した写真はモヤっとした写りになっています。
また、暖色っぽい色の偏りも相まってより「古いレンズで撮りました感」が出ていますね。
スレ大のほうの写真はやはりどうにもシャッキリしないです。
そしてルーペ越しにウエストレベルファインダーを覗いてもぜんぜんピントの山が見えないので本当に厳しい……。
もともと「Angenieuxはピントが掴みづらい」とよく言われますが、それにしてもスレ大のほうはピント合ってるのか合ってないのかぜんぜん分からないです。
Varexのウエストレベルファインダー自体も素で見づらいため、「これピントどこにいるの????」ってなりながら撮影する羽目に……。
そして別日に晴天屋外でもちょっと撮ってきたのですが、撮り始めてすぐに三脚の雲台が壊れてまともにカメラを固定できない状態になりまして……。
比較としてはあまり参考にならないですがいちおう写真を掲載しておきます。ここらへんのはKodak Gold 200で撮ってます。
光線状況は斜光気味だったように記憶しているのですが、意味わからん巨大なゴーストが出ています。
28mmのほうもフィルムで撮る時に使うとこういうゴーストが頻繁に発生して頭を抱えることが多々あるのですが……。
世のAngenieux使いの皆様方も日夜こんなゴーストに悩まされているのでしょうか?
追加検証のご要望やその他に調べて欲しいネタ等ございましたらこちらよりご要望ください!
それではグダグダで恐縮ですが今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回のブログでお会いしましょう~!